「今、この瞬間」に集中するには 集中力のお話
みなさんは普段の仕事や勉強、音楽や楽器の練習に集中して取り組めていますか。
「集中できなくて仕事が終わらない」
「机に向かったのはよいものの、気が付いたら寝ていた」
「楽器の練習をしたいのに、別のことに意識が向いて集中力が続かない」
といったことがあると思います。
プロのアスリートや仕事のできる人をみると、長時間集中しているように見えます。この人達と自分を比べて、「才能がないから」とか「根性がないから、集中できない」と自分に劣等感を抱いてしまいがちです。
ですが、安心してください。彼らとの差は、‟その仕組みを理解して集中力を上げるトレーニングをしているかいないか”です。
集中力は鍛えることができます。
今回は、メンタリストDaigoさんが書かれた「自分を操る超集中力」を参考にお話ししたいと思います。
※本書で、ウィルパワーは、使うと減っていくと書いていますが、最新の知見では以下のように言われています。 「意思力は減らない。単に脳が同じ作業に飽きることで、集中力が低下するに過ぎない。」 ですので、集中力は使うと減るというのは違うというのが最新の科学です。
集中力の源
集中力とは、「ある特定の物事に注意を向けて取り組む能力」で、誰にでも備わっている能力です。「集中力」には作り方があり、意識するだけで自在にコントロールできるようになります。そのためには、仕組みを理解しなければなりません。
哺乳類の脳の一部に前頭葉というものがあります。人間と動物の脳を比べたときに違うのは、この前頭葉の大きさの違いです。前頭葉は「前頭葉はヒトをヒトたらしめ、思考や創造性を担う脳の最高中枢である」と言われています。
私たちは、進化の過程で前頭葉が大きくなり、他の動物にはない思考や感情をコントロールする力を獲得しました。この力は「ウィルパワー」と呼ばれています。
ウィルパワーの出どころは一つしかない
スポーツや家族とのコミュニケーション、ダイエット、勉強など、それぞれ別に切り離して考えてしまいます。仕事が行き詰ることと、ダイエットは関係ない、家族とのコミュニケーションをうまくとれなくても、勉強には関係ないなど・・・
仕事やプライベートを別々に考えてしまうのは、それぞれ別の集中が必要だと思っているケースがあるからです。ですが、まったく関係ないような行動でも使われるウィルパワーの出どころは同じです。
つまり、「ダイエットが続かない」や「机に向かったが勉強する集中力が続かない」というのは自然なことで、ウィルパワーが消費され、脳が休息を必要とする状態になっているからです。
とある実験「ウィルパワー」を鍛える方法
アメリカの心理学者、ロイ・バウマイスターは、ウィルパワーを鍛える方法をみつけるため、次のような実験行いました。
学生たちを集めて、三つのグループにわけます。
1つ目のグループは「2週間、立っているときも、座っているときも姿勢に気を付けるよう」指示されます。学生たちは、気づいたら背筋を伸ばすことに集中し、2週間過ごしました。
2つ目のグループは「2週間、食べたものを全て記入するよう」指示されます。学生たちは、つまみ食いなどの食べ物もすべて記入して2週間過ごしました。
3つ目のグループは「2週間、前向きな気持ちやポジティブな気持ちを保つよう」指示されます。学生たちは、常にポジティブでいるよう心掛け、2週間過ごしました。
そして、2週間。学生たちは集められてあるテストを行いました。それは、コメディー番組が流れるテレビの横で、つまらない単純作業をするというもの。
この3グループの中で、ウィルパワーが鍛えられたのは、どのグループだと思いますか?
姿勢に気を付けるだけで集中力が鍛えられる
結果は、なんと1つ目のグループの「姿勢を気をつけるよう」指示されたグループでした。
なぜ、このような結果になったかというと、普段無意識に行っているものに対して、「やらないように意識すること」は、強い集中力を必要とするからです。
姿勢を保つ行為は、普段気にしない行為だと思います。無意識に猫背になったり、肘をついたり、足を組んだり・・・
このような行動を実際に「やらないように意識すること」は、かなり集中力をつかいます。
このように、無意識の行動に「気付き」改めて行動するたびに、「ウィルパワー」は大きく強化されます。これをセルフモニタリング法(※1)と呼びます。これは、「今、この瞬間」に集中するマインドフルネスで行うこととほとんど同じです。
※1・・・自分の行動や考え、感情を観察記録し、客観的に自分自身の行いを評価すること
集中力を高める方法
- 運動をする
ストレッチや体操、ウォーキングといった軽い運動を20分ほどするとよいです。運動をすることで、認知能力、集中力や考察力が高まることがわかっています。おすすめは、緑のある公園で陽の光をあびながらの運動です。
陽の光を浴びることで、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌され、集中力、ストレス軽減の効果があり、気持ちを前向きにしてくれます。合わせて自然に触れることで、副交感神経が活性化して、リラックス効果があり一石二鳥です。
またセロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料です。いっぱいセロトニンを出すことで、メラトニンが生成され、睡眠の質を上げることができます。 - 瞑想をする
瞑想ときくと、スピリチュアル的なイメージが先行してしまいますが、脳科学の分野その効能は認められています。瞑想といっても、食事瞑想や歩行瞑想といった、日常の行動でも、マインドフルネスを意識できます。瞑想をすることで、脳の前頭前野が活発になりたくさんの効果が得られます。
【瞑想の効果】
脳が疲れづらくなる。頭がよくなる。集中力、記憶力が上がる。ストレスに強くなる。ポジティブになる。コミュニケーション能力が上がる などなど・・・
集中できず疲れる理由
「今日はどんな服を着ようか」「朝食は何を食べようか」「メールの内容をどうしようか」など、何気ない行動一つに決断をしています。ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によると、1日に3万5000回も決断をしているそう。なんと、「布団から起き上がる」ことでも決断しています。
「なにかをやる」「なにかをやらない」「なにかを望む」という判断と決断を繰り返すことで、脳が疲労していきます。これを「決断疲れ」と呼びます。
スーパーで買い物しているときに、普段使わないものを買ったり、必要以上に商品を買ったりしてしまうときがありますよね。これは、多すぎる選択肢を与えられると脳が疲労し、「決定疲れ」により、正しい判断や決断ができなくなっているためです。
「使った食器を洗う」や「洗濯をする」など、疲れているときはなんでも「先延ばし」にしがちですよね。なにか決定しないといけないことを、「やりかけのまま」や「先延ばし」にすると、無意識に気にした状態になります。
後回しにすればするほど、脳は疲労していきます。
このことから、脳は行動ではなく「意思決定」で疲れていることがわかります。
集中力を奪われないために
日常の脳疲労を減らすには、判断や決断の回数を減らすことです。持ち物を減らし、選択する機会を減らすことで、集中力を保つことができます。
例えば、スティーブ・ジョブズは公の場ではいつも同じ格好でした。「毎日の服を選ぶ」という選択を、「習慣化」することで排除しました。習慣化することにより集中することなく処理できるようになりました。
これは、アスリートの人たちにもいえることです。打つ、投げる、走るといった行動を練習によって習慣化しました。サッカーのスルーパスや、バスケットボールのアリウープなども、高度な判断と運動です。
ところが、このアスリートの脳を調べてみると、いずれの動作で前頭葉はあまり活動していませんでした。主に小脳が動いていて、身体を反射的に動かしていただけだそう。
それだけ、習慣化することで集中力を必要とする動作でも、集中せずに処理できるようになります。